ケンタとジュンとカヨちゃんの国 感想 *ネタバレあり。
ケンタとジュンとカヨちゃんの国 感想 *ネタバレあり。
監督 大森 立嗣
出演者 ケンタ:松田 翔太/ジュン:高良 健吾/カヨちゃん:安藤 サクラ/裕也:新井 浩文/カズ:宮崎 将/柄本 佑/多部 未華子/小林 薫/柄本 明
エンディングテーマ 「私たちの望むものは」阿部 芙蓉美
2010年に上映していた作品です。
親もいない。
居場所もない。
「ぶっ壊して抜け出すんだよ」
同じ施設で兄弟のように育った幼馴染のケンタとジュン。
工事現場でひたすら壁を壊す「はつり」という仕事をしている二人。
低賃金、劣悪な労働環境。そして職場の先輩、裕也による理不尽で執拗ないじめ…。
ある日ふたりはナンパに出かけ、そこで自分がブスであることを自覚し誰とでも寝るカヨちゃんと出会う。
ジュンはカヨちゃんの部屋に転がり込む。
そんなある日の深夜、ケンタとジュンは仕事場へと向かう。その後を付いていくカヨちゃん。
ケンタとジュンの計画は、裕也の愛車を大ハンマーで壊し逃げることだった。
ケンタが事務所を荒らし、そのあとケンタとジュンで裕也の車の上に飛び乗り、力いっぱいハンマーを振り下ろす。
そのあと三人はバイクを積んだトラックに乗り、ケンタの兄がいる網走の刑務所へ向かう。
ケンタがまだ13歳だった頃に、兄カズが起こした幼児誘拐未遂事件。
カズはその事件のことを馬鹿にした裕也の腹を、カッターナイフで何度も切りつけた。
その賠償金と称されて、ケンタは毎月裕也に金を払い続けている。
施設で育ち、兄が誘拐や傷害事件を起こし加害者家族として生きているケンタ。
「行くとこも帰るとこもないんだよ」という悲しみと怒りが籠ったセリフがこの映画の象徴である。
松田翔太が演じるケンタや高良健吾が演じるジュンのことを、ゴミ屑のように扱う裕也を演じた新井浩文とケンタの兄カズを演じた宮崎将の演技がよい。
職場の先輩でもあるため、常に執拗ないじめをケンタに繰り返す裕也。
裕也 「おまえさ、1+1とかもできないんだろ?」
ケンタ 小さく鼻で笑ったあと「5」
裕也はケンタに握手を求め、ケンタの手をお好み焼きが焼き終わった鉄板に押し付ける。
このシーンでの、新井浩文と松田翔太の会話の間の取り方が絶妙だ。
裕也のいじめに耐えることには限界がある。
その怒りを解放する計画、事務室と裕也の愛車を壊すシーン。
事務所で暴れるのはケンタのみ。机をひっくり返してテレビを投げつけ棚の書類をばらまく。
2Fの事務所を荒らす様子を、1階で見守るジュン。
その表情からは、「ケンタくん、これでいいんだよ」というジュンの声が聞こえる。
その後、二人は裕也の愛車をボコボコにする。
今まで溜まっていた鬱憤を全部吐き出して、バイクを2台積んだトラック盗んで旅にでる。
長々と旅の様子が流れるのかと思いきや、テンポよくストーリーは進んでいく。
ケンタとジュンは(カヨちゃん)は、小さな世界の中で生きてきた。
ケンタ「外国って本当にあるのかな?」
ケンタ「網走って知ってる?」カヨちゃん「芸能人?」
ケンタは網走の刑務所にいるカズに会うが、なにかをぶっ壊したら見えるものが、変わることがあると信じていたケンタの思いを、カズは否定する。
このカズの演技が恐ろしい。やせ細り髪を刈り上げ、力なくケンタと会話をやり取りする。育ってきた環境、そしてこれから待ち受けている自分の生きていく世界。
全部諦めている。刑務所に入る前から全てはわかっていたという人物である。
このあとケンタは情緒不安定になり、ケンタとジュンを追いかけてきた裕也をバイクで跳ね、絡んできた若者を石で殴り、それを止めようとしたカヨちゃんを襲いそうになり、、、。
エンディングに流れる阿部芙蓉美さんの「私たちの望むもの」に、
私たちの望むものは あなたと生きることではなく
私たちの望むものは あなたを殺すことなのだ
とある。
これはケンタとジュン、ケンタとカズ、ケンタとジュンとカヨちゃん、それぞれの関係性に放った歌詞だと思う。
本当に殺すのではなく、自分の中に存在する彼、彼女を殺すのだ。